きっとそうだ、という希望

 その穏やで優しさと喜びに包まれたその祭りは、少し賑やかなホームパーティーのような、そんな結婚式でした。
 例えば、今し方すれ違った日本人観光客のカップルがそれを見たならば、そんな様な感想を述べるだろう。全くもって表面上はとても楽し気な時間が過ぎました。
 僕には、堪え難い苦痛の時間でした。もしかしたら、あの式に参加した人間全員、判で押した様に幸せな笑顔を浮かべたその下で、堪え難い苦痛を感じていたのかもしれない。きっとそうだろう、誰もがあの式の何かに落胆していた。
 その日結ばれた一組の男女、ボンゴレという偉大なマフィアのボスとその恋人は決して愛し合ってはいないのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
「いえ、愛し合ってはいる・・・のでしょうか?」
「何の話だ?」
 つい考えて居たことを口に出してしまうと、隣のスツールでミネラルウォーターを飲んでいた笹川了平が不思議そうにこっちを見て、首を傾げた。
「今日の二人の事です」
「当然、愛し合っているから結婚したんだ。誓いもしただろう」
 僕は話を誤摩化す様な事はしなかった。そして彼は、僕の疑問になんの疑いも挟まずにすんなりと答えた。成る程、彼の言う通りに彼等は形ばかりも信仰していない神に愛を誓い合ったし、きっと愛し合っているし、想い合っている。そこには疑念の余地がない。彼の言う通りなのだ。
「君は、結婚しますか?」
「どうだろうな・・・お前は、するのか?」
「どうでしょう?考えた事もない」
「だろうなあ」
 僕らは結婚式の後の祝いの席を中座して、二人だけでふらふらと街を歩き、近頃出来たばかりの真新しいバーで、酒も注文せずにカウンター席を陣取って互いに考えを巡らせながら、思い出した様に会話を挟んで過ごしている。
 客の出入りは多くも少なくもない店のアンティーク時計の短針と長針が交わる頃に、やっと彼が立ち上がった。

「キスをしませんか?」

 街灯の灯りも無い、真っ暗な細い路地を抜ける間につい言ってしまった。彼は立ち止まって振り返り、何も言わなかったし目も反らさなかったので、僕はだまって彼に触れた。
 その日は、どうかしていたとしかいい様がないのだが、ついキスをするのも忘れて抱きしめてしまう程に彼はか細い存在でした。

 今日結ばれた二人も、きっとこんな風に抱き合うのでしょう。
 例えば、脳裏に別の人間を思い浮かべても、きっと抱き合える。それ位には想い合っている。のだと思えます。


 僕は彼を抱きしめる時、他のなにも考えてはいれなかったのですけど・・・ 


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