昼下がりの

 その日の彼らはとてもうっかりしていたのだろう、普段からあまり人気の無い東棟の端にある三階に上がる為の階段の踊り場で、社会科の自習時間にますます人気の無いそこで六人ばかり集まって煙草を吸っていたのだ。
 他の生徒は授業中、校庭から響くサッカーをする一年生男子の声をBGMに完全に気を抜いていて内容等ほとんど無いに等しい会話に華を咲かせていた。お陰で階段を上がってくる靴音には気付かなかったし、上がって来た人物の二の腕に巻かれた「風紀委員長」の文字も当然目には入らなかった。


 同日の雲雀恭弥。不意に応接室から見上げた空が見事な快晴で、3cm開いた窓から吹き込んでくる風が心地よかったので昼寝場所を屋上へ移すべく応接室を出て東棟の階段の踊り場に出るまで機嫌はすこぶるよかった。が、そこで彼がもっと忌み嫌う事を体現する集団に出くわした。
 無論、機嫌は急転直下一気にマイナスまで落下し、結果として踊り場は血の海となり、彼の仕込みトンファーからは新鮮な赤が滴り落ちて屋上の程よく熱せられたアスファルトに丸い滲みをつくった。

「ワオ」

 お気に入りの感嘆符を吐いた雲雀恭弥の視線の先には、同じく彼のお気に入りがごろりと転がっていた。そして珍しく静かに規則正しく胸を上下させ、それに合せて柔らかく息が吐き出されている。色素の薄い瞳は開いては居なかった。
 手にしていたトンファーを一度振って血を払い。いつも通りにどこへ行ったか解らない位鮮やかにしまい込んで、猫がするように音も無く、転がった人物の隣まで移動してしゃがみ込んだ。
 風に揺れる産毛まで見えるんじゃないかと錯覚を起こす程顔を近づけ、それでも全く起きる気配のない相手を確認すると隣のアスファルトに横たわった。春先の柔らかな日差しに温められたそれはひどく心地よい温度で睡魔を誘った。 
 上を見ていれば、完璧な晴天の青が一面に滲み一つなく広がっているのだろうけどそんなものよりも魅力的なものが隣で眠っている。洗剤と汗と太陽の匂いのつまったワイシャツの肩口に顔を埋めて鼻を擦り寄せる。さっきまでの不愉快極まりない連中の事など綺麗さっぱり忘れて酷く満たされた気分でゆっくりと瞼を落とした。
 さっきまでトンファーを握っていた腕は誘われるままに上下する鍛えられた腹筋の上、足も絡めようかと考える前に思考のブレーカーは落ちていた。



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